わず滅多やたらにそいつをぶち込んだ。何条もって耐るべき大切の商売物、肉は崩れ、骨は飛び、一瞬にしてめちゃめちゃになってしまうのだったが、こうでもしなけりゃ俺夜っぴて寝られねえものと平気で空嘯《そらぶ》いていた。
それほどの乱暴な男だったから、二十代の血気盛りの奉公人たちがみんな訳もなくチリチリしていた。そこへ次郎吉は奉公にやられたのだった。選りに選ってここなら大丈夫と、内々、母親が主人の気ッ風を探っておいてよこしたのだろう、さすがに次郎吉も今度ばかりは大人しく辛抱した。いや、せざるを得なかった。目のあたり見るガチャ鉄の蛮勇には歯が立たず、強そうな朋輩たちがでろれん[#「でろれん」に傍点]祭文のような鍛えた塩辛声でガチャ鉄から頭ごなしに怒鳴り付けられているのを見ると、いっぺんでピリピリふるえ上がってしまったのだった。
……今度ばかりは寄席のことなどおもいだしている暇など許されなかった。黙々と、身を粉にして働いた。ひたすらにただひたすらに牛馬のように働いているよりなかった、朝早《あさはや》の買出しの手伝いに、店の細々《こまごま》とした出入りに。
ひと月……ふた月……いつか祭月がきのう
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