身近に感じないわけにはゆかなくなっていたのだった。


     三

 圓朝二十九の夏がきた。
 ペルリの黒船来航以来、にわかに息詰まるような非常な匂いを見せだしてきていた世の中は、相次ぐ内憂外患に今や何とも名状しがたい物騒がしさはほとんどその頂点にまで達していた。水戸の天狗騒ぎ、長州軍の京討入、次いでその長州征伐、黒船の赤間ヶ関大砲撃、そうしてさらにこの六月には公方様は一切を天朝様へお還し申し上げなければ。そこまで事態は切迫していた。そうした目狂おしいばかりの非常時歳時記の真っ只中で、どの芝居へも、どの寄席へも、恐しいほどよくお客がきていた。
 燭火の尽きなんとする一歩手前の明るさのような無気味なものをまんざら誰もが感じないわけでもなかったが、それはそれとし圓朝自身のことにすればあくまでいう目はでる[#「でる」に傍点]ばかりだった。小糸との間も、日に日に深くなっていたし、いま、この世の中は全く自分のために動いているか。そうした考えを抱いたとてさして大それてはいなかろうくらいだった。
 でる杭は打たれる。
 しかし仲間での圓朝への非難は、ようやくこのころから目に見えて勢いよく沸騰して
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