たちと圓生|別懇《べっこん》の者は、だいたい何しろ二度三度とこのもてなしに与かってしまったものだから、どう本人が半チクな芸だとて、圓太を襲がせないわけにはゆかなくなってしまったのだということだった。
「だから、だから師匠、誰も苦情をいわなかったんだって。でも大師匠はじめとんだだらしがねえや、あの野郎に酒と妓でいいようにされちまうなんてねえ」
 忌々しそうにこういって、
「でも偉いねえ文楽お師匠さんだけは。何べんあいつがさそいをかけてきてもいっぺんも御馳走になりに行きなさらなかったんだって」
 とたんにガラリと格子が開いた。人の訪《おとな》う気配がした、すぐ飛んでいった萬朝が、
「ヤ、師匠、噂、噂、噂、噂をすれば噂だね、文楽お師匠《しょ》さんやってきたよ」
「な、何をいいやがるんだ噂をすれば噂だってやがら、ヤイ覚えとけ、噂をすれば影てんだよ」
 元気のいい声で笑って文楽、
「どうせ俺の悪口でもいってたんだろ」
「冗、冗……ほめて」
「な……、嘘ウ……」
「ホ、ほんとだってば、ねえ師匠」
 助け舟を呼ぶように萬朝うしろを向いたとき、
「オ、ようこそおいでで、サ、師匠どうぞ」
 無理から湿っ
前へ 次へ
全268ページ中207ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
正岡 容 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング