強いて面を晴れやかにして上がってゆくと、前に師匠が充分に伺った「小烏丸」もどきの別の[#「別の」に傍点]噺をいとも危っかしい調子で喋りだした。すでに噺が似かよっている上に、「小烏丸」の急所急所は除けて喋っている。おもしろいわけがなかった。
 しかも急仕立だけに鳴物のキッカケは始終外れる、せっかく鳴物のほうがピッタリ合ったかとおもうと圓朝のほうが口籠ったり、とんだいい違えをしたり、した。しどろもどろ。てんで型にも何にもなっちゃいなかった。
 今晩これぎりと果太鼓《しまいだいこ》とともに御簾が下ろされたとき圓朝は、穴あらば這入りたや、ベットリ冷汗で身体中を濡らしていた。
「オイ思ったより妙でねえな」
「ウム。しかしこれ圓朝かなあ。俺、前に聴いたときもっと巧えとおもったんだがなあ。別の奴かもしれねえぜ」
 ぞろぞろ[#「ぞろぞろ」に傍点]下足の方へ立っていく客の群れの中から、こんな聞こえよがしの高ッ調子がまだ高座のまん中で手を突いたまんまでいる圓朝の耳へ鋭く痛く刺《ささ》ってきた。
 無理はない、演っているこの私でさえ、じれったいほどまるで調子がでてこないんだもの。ことさらにあとからあと
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