に、まさに歴然と演ってしまった「小烏丸」を二度と繰り返すことはできない。
「どうしたらいいだろう全く」
 ギッチリ詰まった中入りの客席、しきりにお茶売っている声すら耳に入らなかったほど、立ったり坐ったり、またその辺を意味なく歩き廻ったりしていた。
 怨めしいほど早く中入りの時刻は過ぎた。
 容赦なく片シャギリの囃子が鳴らされ、歌六という背の高い音曲師がヌーッと上がっていった。賑やかにお座づをつけはじめた。
 この人が終ったら、あとはもう泣いても笑ってもこの私だ。
「ああ、ほんとうにもうどうしよう」
 いっそ圓朝は泣きたくさえなってきた。でも泣いたとて、喚いたとて、しょせんははじまらないことだった。そういううちも時刻は刻一刻と迫ってきていた。
 何とかしなければ……。せっかくの自分の初看板がめちゃめちゃになってしまう。
「ままよ――」
 苦し紛れの一策として「小烏丸」によく似た筋を、突嗟に圓朝はでっち上げ[#「でっち上げ」に傍点]た。これなら何とか今夜持ってきたこの道具を、鳴物を、そのまま活かすことができよう。
 そう心を定めたらさすがにいくらか胸の動悸がしずまってきた。でもこんな噺、あ
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