ず池の端の住居からこの森下までお詣りにやってくる自分だったけれど、門番の爺やへ余分の心付けのやれないことだけが、そのたんびの苦しさだった。悲しさだった。
「ああちょうどまる[#「まる」に傍点]一年自分は森下のあのお寺からこの天王橋の通りまで、いつでもそのたんびかっぱらい[#「かっぱらい」に傍点]でもした小僧のように逃げ出してきたことになる」
二年、三年、五年、十年――いや自分のいのちのあらん限り、照ろうと降ろうと、雪だろうと嵐だろうと、それこそ天から槍が降ろうと、初代さまお墓詣りに伺うことに何の苦労もあるわけとてなかったけれど、一日も早くたとい二文が三文でもあの門番へ余分の心づけがしてやれる身分にはなりたい。
偽らざるこれが圓朝の本音だった。
「まず御先祖さま、お心づけのやれる私にだけ、大急ぎでさせて下さい」
ギーイと音立てて開いた番傘を真っすぐにさし、天王橋を後に、御廐橋のほうへ歩きだしながら圓朝はさらに口の中でこう頼んだ。この道、大廻りは百も承知、金龍寺をでてつづく寺町を北へ、佐竹のほうへ抜けるとするとどこもかしこもお寺ばかりで、いつ迄もいつ迄もそこら中のお寺の門番から心づけ
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