とを。
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梨の花青し 圓朝の墓どころ
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[#地から1字上げ][#ここから割り注]昭和癸未睦月下浣[#改行]於 巣鴨烟花街龍安居[#ここで割り注終わり]   作者
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第一話 初一念
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     一



「……」
 クリッとした利巧そうな目で小圓太の次郎吉は、縹《はなだ》いろに暮れようとしている十一月の夕空の一角を悲し気に見つめていた。
「……」
 目の上一杯にひろがっている夕空がみるみる言葉どおりの釣瓶《つるべ》落としに暮れいろを深めそめ、ヒューヒュー音立ててそこら堆い萩の枯葉を動かしてはしきりと次郎吉の身体全体を吹き抜けていく夕風も、はや夜風といいたいほどの肌寒さを加えてきていたが、懐手《ふところで》をしたまんまその目を動かせようともしなかった。まるで凝結したように佇んでいた。
「……」
 だしぬけに向こうの上野の御山の方から、北へ北へと鳴きつれてゆく薄墨いろの雁の列があったが、一瞬チラと目をくれただけで次郎吉は、※[#歌記号、1−3−28]あと
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