柳があったけれど、ほんとうにそうした慎しやかな中に何ともいえない艶気を含んだ古風の表構えだった。
 が――中入近くに入って行ったその寄席の高座ではフロックを着たノッポの男がカードの手品を見せていた。そのあとへは清元の喬之助婆さんが若い女の子を連れて上がってきた。かけもちの都合があるとみえて次の三木助は小噺一つであっさり踊って下りていった。いささか私はガッカリした。やっと顔を見せた染丸はなぜか季節に構わぬ「堀川」という噺をやった。
 ひどい寝坊の男を、母親が朝起こすのに骨を折っていると猿廻しが浄瑠璃の「堀川」のサワリの替唄で起こしてやる。ここで下座の女に太棹の三味線を弾かせ、
  ※[#歌記号、1−3−28]お起きやるか、目痛《めいた》や目痛やなア、ウヤ源さんイヤ源さんイヤ日天《にってん》さんがお照らしじゃ、時間何時や知らんか(中略)イヤ腕力な、イヤさりとはノウヨホ[#「ノウヨホ」に傍点]あろうかいな、けんかなぞ止めようかいな(下略)
 といったようなあんばい式にやるのだが、いったいに長屋のしじま[#「しじま」に傍点]こそ滲んでおれ、主人公そのものが没義道な不快な性格で少しも愉しくなれな
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