てくれたあの棚ねエ、あれもすぐに落ちてしまったよ」
「アレ」
 圓太郎は丸い目をさらに丸くした。
「それもいいけど、お八重が直したらすぐ吊れて、今度は落ちもなんともしないよ」
 情けねえことになったもンだ。じゃ俺が吊った棚の後始末はお八重ちゃんがしたのかイ。アア、それであの子、俺に愛想をつかして、今朝は姿も見せないンだな。
「しかし師匠、あれが落ちるわけがねえンだがなア」
 未練らしく圓太郎は言った。
「だって、お前、落ちたものはしょうがない。女のお八重に吊れるものが、男の、まして大工のお前さんに吊れないンだ」
 圓朝は笑った。
「でもそんなそんな。そんなはずはほんとにないンだけれどなア」
 なおもひとしきり小首を傾げて考えていたが、やがてのことにポンと手をうって、
「ア、わかった師匠。じゃアあなた、あッしの吊った棚へなにか載せやしませんか」
「オイオイ、いい加減におしよ馬鹿馬鹿しい。世のなかに載せない棚てのがあるもンかネ」
 あきれ返って圓朝はもうなんにも言わなくなると、しばらく細い目をパチパチさせていたが、
「まア、そんな話はどうでもいい。ここに紋付が出ているから早くそれを着ておし
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