りはじめた。削り終ると、すぐにトヽヽヽヽンと打ちつけた。四隅が塞がれたのでにわかに目の前が薄暗くなり、その暗い中で見上げると、早桶の倍もありそうな桝の中に小さく自分が座っていた。
 できたできた。圓太郎はよろこんだ。
 さア、今のうちひとッ風呂浴びて、汗を流してくるとしよう。急いで立ち上がると、東側のフチへ手をかけて出ようとしたが、高くてとても出られなかった。いけねえ。西側へまわってみたが同じことだった。
 オヤオヤ。北側も南側も駄目だった。どうしても出ることはできなかった。いつまでやってみても同じことだった。だんだん辺りが暮れかけてきた。部屋の中が暗くなってきた。
 いけねえいけねえ、こいつァいけねえ。圓太郎はジリジリしてきて――。誰か誰か来て。お隣の小母《おば》さアん。早く梯子《はしご》を持ってきて――。とうとうムキになって彼は、怒鳴りだした。


  お手討

 翌朝。大八車で運ばれてきた据え風呂桶の化け物みたいなこの一斗桝を見て、圓朝は肝をつぶした。
「ナ、なんだイこりゃアお前」
「一斗桝ですよ」
 圓太郎は得意そうだった。
「一斗桝? そんな馬鹿な。お前こんなバカバカしい一斗
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