折から颯と渡つた風は、はじめ最も低く地上をすつて、雪の上面を撫でて恰も篩をかけたやう、一様に平にならして、人の歩行《ある》いた路ともなく、夜の色さへ埋み消したが、見る/\垣を桓《だわ》り軒を吹き廂を掠め、梢を鳴らし、一陣忽ち虚蒼《あおぞら》に拡がつて、ざつと云ふ音烈しく、丸雪は小雅を誘つて、八方十面降り乱れて、静々と落ちて来た」
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とえがいてゐられるが、此は断じて東京の大雪でない。勿論、先生も「紅梅の咲く頃なれば、斯くまでの雪の状」は「都の然も如月の末にあるべき現象とも覚え」ないと特に断つてはゐられるが、
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二天門仁王門大雪となりにけり
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[#地から2字上げ]茶泉
と云つた句に見られるやうな、あくまでサラリとした旧東京の大雪でない。江戸このかたの大雪の景色でない。つまり広重でない。清親でない。これは先生の御郷里たる加賀金沢の古びた城下にしん/\とふる雪である。犀川べりに浅野川の磧の石にふり積む雪の姿である。も一つ云はせて貰ふなら魚眠洞随筆のゴリ料理をたべさせる家の軒端をドサリツと滑つて落ちる夜の深雪の音であらう。
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