家庭の方は全然うまくいかなかった。私はあくまで圓馬好みの意気なおかみさんが選ばれてくるものと安心して一任していた。まして相手はさる遊廓なにがし楼の娘だというのでいよいよ安心しきっていたところ、そうしたところの娘なのに雁次郎をいっぺんも見たことのないという風な女が私と生活をともにしだした。圓馬夫人は文士というのは学者のような堅苦しいものであると確信し、その文士の中でも私のごときは進んで芸人社会へ飛び込んでいったりしている変わり種の存在であるという点を、当初に計算してかかられなかったため、いたずらにお互いが悲劇を将来してしまったのではある。
 いや、こう書いたら、その前にあなた方は言うだろう。かりにも正岡容ほどの侍がそんな青春二十一や二でいくら圓馬盲拝の結果とはいえ、どうしてくだらなく平凡な見合結婚をしてしまったのだ、と。仰せいかにもごもっともであるが、まあお立ち合いしばらく待ってください。人間目がでなくなるとこうもどじにいくものかと自分ながら呆れるほどその時代の私は人生万端駄目に駄目にとなっていき、つまり私はその相次ぐ不幸の連続にもろくも惨敗してしまったのである。まずその最初がこうである
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