けてしまふだらうと、悽惨な感じがしたし又綾昇は極めて奇異の存在であるが、鏡岩のやうなタイプは昔から力士によくあるになぞらへ、果して今の綾昇のやうなニヤニヤとしたぬるりとした感じの力士も、昔からこの型があるものかどうか。これもぼくなんかが力士だつたならば、このぐんにやりとした人と組むことを考へるだけで、総身が気味の悪さにしびれ、とうに敗戦となりさうだ。
 ――問ふにおちず語るにおつといつた塩梅で、筆者当人は、さしたる角力ファンではないのである。たゞ両国ファンである。それも偶々あの界隈に育つたからといふ、因果関係である。
 しかし思ふにさういふ環境風な因果がいつか知らず識らず人の情操生活に浸透してゐて、いまだにとうとうとわたる櫓太鼓の音を聞くと、ぼくのやうな弱虫が矢張りそこに「場所」のやうな颯爽とした心持を感じるとすれば? ぼくなんかは折角この附焼刃を生活からよく計算しておかないと、畢竟、土地の名折れにならうと考へてゐる。冗舌蒙御免。
[#「(両国界隈・両国今昔参照)」のキャプション付きの図(fig47603_04.png)入る]



底本:「東京の風俗」冨山房百科文庫、冨山房
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