館、三番地(勧業場)。横浜勧業銀行東京支店、五番地。古矢カマ、八番地(産婆)。両国恵比寿屋本店、九番地(餅汁商)。紀文堂、九番地(煎餅商)。」
元柳町は吉川町の隣りの町であるが市役所の「東京案内」に、
「元柳町、昔時幕府の同朋が受領したる地也、その柳原の末にあるを以つて下柳原同朋町及新地と称せり。明治五年四月柳橋の傍にあるより今の名に改む。里俗元と表町裏町の称ありたり。神田川北を流る。」――かう説明される土地である。
ぼくのつまらぬ書きものがこんな時節外れにも拘らず読む人を持つてゐると聞いて、却つて気がひけて来た。ぼくはたゞ自分の書き反古を以て、それを活字に拾つておいて貰ふ気にすぎなかつた。ぼくは文学者でないに拘らず文字でないと記しにくゝ伝へにくい、一種の材料として大変いゝもの[#「大変いゝもの」に傍点]を持つてゐるやうである。材料はたしかに公刊書の印字に付しておいて無駄でないものなのだが、いかんせん、その調理法については、ぼくでは間に合ひにくいものがあるので、かねがねわれながらこれを遺憾に思つてゐた。今も同じ遺憾のまゝこの記を草するのに、土地はその後再三の地変災厄を経て、一物の
前へ
次へ
全28ページ中27ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
木村 荘八 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング