燈籠之図(風俗画報所載)」のキャプション付きの図(fig47736_01.png)入る]

「横山町辺のとある路地の中」とあるのは、浅草橋から見て西へ、馬喰町の四丁目から一丁目へかけての片側と、横山町の三丁目から一丁目まで、それから少し通油町へかけて、この町家の中をまつすぐ貫いてゐる路地を指すものに相違ないが、これはやがて南北竪筋のみどり川へぶつかり、これに架る油橋で止まる。それまで相当細長い道中を、板じんみち、石じんみち、と一丁目毎に区切つて呼んでゐる。路地の路面に板が敷いてあるか石が敷いてあるかによつて、わかり易く分けて呼んだ通称である。ことはいふまでもなく、板が敷いてある――といふのが、元々それは大下水の蓋になつてゐるわけである。路地の通路の板なり石を一皮剥げば、真黒な下水ドブが現はれようといふ勘定だ。しかもこのドブの蓋の上の狭い通路をはさんで両側から、家々が背を向けようどころか、対々に堂々と正面向きで相向つてゐる賑はしさが、この細長いじんみちの尽きぬ面白さであつた。
 去る大正十三年のことだつたが、ぼくは友人の上原長柏、西野治平、高見沢遠治三君と互に記憶を分ち合つて(何れも昔近
前へ 次へ
全28ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
木村 荘八 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング