のわけで、「地蔵祭りの盛りもの」を通り越さないと、それをさつぱりと洗ひ落して束ねる味覚へは届かない。尤もそれと同時に一方にはまた金銀珊瑚の高島田もあつたわけだが、――横櫛といふのは、当時三代目菊五郎の女房お豊といふ人の頭に禿があつた。それを隠さうと、横櫛にしたのを、町方の者が一斉に粋として真似、引いては大阪へまでも行響いた風俗――と巷間伝へられるものだ。
 水髪もまた便利である、浴衣の夏など殊によからうと思ふ、(今は猶更便利実用のものに断髪といふのがある。何れは坊主にでもなるか。呵々)横櫛も隠す[#「隠す」に傍点]には便利この上ない趣好だらう。――然しこれについては贅するまでもなく、決して、便利一つで起つたことではない。その「美しさ」、いはゆる、彼等の発見した、粋《いき》ゆゑに発祥したことで、これについてまた思ひ起すのは伊達の素足といふことだ。さぞ寒さはさむかつたらうが……といふのが不便であらうと寒からうとも、その頃の彼等は、そこに風情が忍ぶとなれば素足を法として断じて寒中も足袋は履かなかつたといふのである。
 洗い髪に横櫛をさして、浴衣がけに装ひ、当時の句に「明石からほのぼのとすく緋
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