、一つの「ゆかたがけ」といふ美術的にいつて立派な、まあ他の字でいへばあだ[#「あだ」に傍点]な、いき[#「いき」に傍点]な、それ迄の日本にはそこ迄はまだ無かつた極く微妙な味はひの風俗が、世の中に生じたものと思ふ。
その意味で、ゆかたがけは便利の涼しいものである、然しながら只それ故にのみ発祥した姿ではないと考へる。寧ろそれよりもこの姿から編み出せる「美しさ」――その味はひ――が時勢の人を刺戟して、そこで立派に生育した一つの風俗と考へるわけである。
他ならぬ不思議な時代、文化文政の産を思ふ上から、――
こゝで一寸考へて見るのは、いつも衣裳に添ふ髪の結ひぶりのことで、われわれは今日簡単に水髪とか洗髪、横櫛などといふことをいふ。――丁度ゆかたがけと簡単にいふやうなものだ、――しかしこれは明らかになほ天明寛政の頃にはなく、天明寛政といへば漸く女髪結の職がぼつぼつ一般になるかならないかの頃といはれて、「女の風俗は天地開けて今ほど美麗なることなく、あたまのさし物は弁慶を欺き、丈長、水引は地蔵祭りの盛りものよりすさまじ」云々。明らかに水髪の清楚は文化文政に待たないと起らない。いはゆるその辰巳風俗
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