くぎ付けにしてあるので、どうしてだらうときいて見ると、その空間を埋めてゐたカネの唐草模様をはづして、当局まづ率先してケンキンしたとのことだつた。
それがいはゆる上司の「指導方針」だつたやうだ。
便所が奇観だつた。同じ構へのWCの中に高等官用と普通用のと、標札を下げてはつきりした区別があつて、ぼくが普通用の方で用を達してゐると、隣りの高等官用へツカツカとはひつて悠然と放水する役人があつた。――どういふ色の小便の出る人だらうかとをかしく思はれた。
二十二、江戸聞書き(上)
何に依らずもの[#「もの」に傍点]ゝ名にせんさくすれば、必ずゆかりの深い根のあることは、「江戸」の名が、「入江のあるところ」といふ義に基くといふのもその一つで、この語義を考へ、土地の地形をさぐると、歴史の根幹にぶつかることは、周知の通りである。
名物浅草のりの次第や観音堂の由来の古譚をくり返すまでもない。
そしてこの土地には「江戸氏」なる豪族があつた。これは今からかへりみれば、江戸氏なる豪族あつたがために「江戸」の名があつたと逆説してもよい程の、この「土地」とこの「人」は深い因果関係のものだつた
前へ
次へ
全68ページ中61ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
木村 荘八 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング