づつボーボー吹き出すガスであつた。それを文字形に連結した細工である。とんと今でいへばガスコンロの火を遠目に見たやうな形の、そばへ行くと、ゴーゴーものすごい音がして、風の少し強い晩は、字形は半分以上吹き飛ばされて読めなくなる……原始的なものだつた。しかし心うれしく見たものであつた。
 まへに述べた、雪月花の広告壁画の目立つた石町の曲り角には、やがて時代が変ると、こんどは屋根のうへの大招牌に、ペンキ絵の、これも大きな人物画が、宗匠帽子の柔和な老人となつて現はれ、そのわきに句が入れてあつた。「江戸の気に今日はなりけりのりの味」と。のりやの広告ででもあつたものか。
 この絵は、現存六十翁の斯界の先達が、壮年のころに執筆した大作だつたといふことである。その人の名を長谷川カズヲといふ由。
[#燈火広告の図(fig47728_04.png)入る]


     十一、生活の色

 世の中の一変した有様は終戦後三年にして、省線電車の環状線を一周りして「車内の生活」を見ただけでも、明らかとなり、旧時代の色は一と先づかき消されて、新しい「色」がそこに塗られたやうである。恐らくこの「色」は、塗られたにしても
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