、一時の扮色であつて、やがて又変るであらう。変らなければならないとも思ひ、これが地色であつては、「時代」も「国」もたまらないと思ふものゝ、仮りに名づけて「敗戦色」とそれを呼ぶ外にはないものだらう。
人々の服装の国防色ひと色はひとまづ見られなくなつた。十分の質の服装ではないにしても、適度の身だしなみは整つて来たこの節の傾向は、「敗戦色」の中ではいゝ色の分子である。中に若い男や女が飛び離れてよい――といふよりは派手な、きらびやかな服装をしてゐるものがある。思ひ起すのは、大正のころに、いはゆるモガの、断髪が流行し始めたころ、大胆かもしれないが蕪雑さは目をおほはしめた、ヴァルガーな風俗が世代の色だつたことである。それが昭和の絵羽模様に金糸銀糸まで行つて、「敗戦前奏曲」を奏でたのであつた。
近ごろ、はなはだしく若い娘姿に和服の「紅」系統の色目が目立つし、若い男に、ポマードでてかてか固めた頭髪が増えて来た。電車強盗の青年も何れもこのポマードで固めた頭だつたといふ。娘衣裳の「紅」、一体あの染料は、一番安直に簡単に染附く、つまり「染粉」であるから、今のやうな時代には、一時必ずこれが氾濫するのであら
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