数寄屋橋夜景
木村荘八

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【テキスト中に現れる記号について】

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(例)非常に[#「非常に」に傍点]
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 僕の描いたこの絵は果して非常に[#「非常に」に傍点]「東京」の感じがするのかどうか、ぼくにはわからない。ぼくには「東京の」といふよりもこの暗い夜景は「銀座近くの」感じがせずに山谷堀でも描いてゐるやうな心持だつたのが実感だ。尤も空の重く垂れた、花ぐもりといふにはまだ寒すぎる晩だつた。この絵を数寄屋橋の上から描いた晩は。
[#数寄屋橋夜景の図(fig47708_01.png)入る]
 注文は「なるべく東京の感じのするところ」といふのである。ぼくはそれで突差に思ひ出したのは、いつか大阪の友人の斎藤清二郎に聞いた談片で、ぼくが彼に大阪から来てどこが一番東京らしいかと尋ねた時、斎藤は答へて、高架線が新橋から有楽町へかけて乗りこむところが一番「東京」らしい感じがする、水に沿うて都心を走りぬけるところである。一体高架線といふものが大阪にはないから、といふことだつた。――しかしすでに一昔も前の談片だから、その後、状態は東京も大阪も互に
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