あつた。
[#「遊女」のキャプション付きの図(fig47709_02.png)入る]
 この廓内は通りが正確に碁盤目をしながら、大抵の通りのその行き止りまで行くと、卒然としてあたりがつぼむやうに暗くなり、高い一丈ほどもありさうな黒塀などが立つてゐる。また大抵は行き止りにコンクリートの広いゆるい段が出来て、その先きが目かくしの、忍び返しなどつけた頑固な板塀になつてゐる。段を登つて塀のすき間から向うをのぞくと、光り一つ見えず、そこはどんよりした遠い水面らしいのである。
 いかさま、昔この向うの島に囚人がゐたころに、その時分深川は吉原の仮宅があつたといふが、仮宅の騒ぎが、水に乗つて先づ太鼓がきこえて来る。それにかぶせて浮いた三味の音が囚人達の耳に伝はる。囚人がそんな時やみにまぎれ牢脱けをして水を渡る芝居などが作られてゐる。――そのころのどんよりした水面も今夜と全く同じものだつたらう。
 洲崎といふところは一体、
「洲崎遊廓は洲崎弁天町の全域を有し、別に一廓を成し、新吉原に擬したるものにして海に臨むを以てその風景は却つて勝れりとす……洲崎橋を渡りて廓内に入れば直接の大路ありて海岸に達す。左右両
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