ら今思えばモザイク風に描いた、顔や胸などの継々になっている絵を見ました。私はその勧工場で木版の羽衣双六と云うのを買って来ましたが、正月のことで、今云ったモザイクの油絵が珍らしくてたまりませんでした。
当時家兄は、神田の京華中学へ通っていましたが、兄の中学の友人に伊藤? 何とか云う人がいた。度々その人から肉筆の水彩絵ハガキが来て、殊に兄キ達は、仲間で『風見』と云う廻覧雑誌をやっていました。――その表紙と口絵とに或る号へ「伊藤さん」が、表紙には女の上を向いた大きな顔と、口絵に煉瓦建てのある風景を描いていました。忘れもせぬ「ワットマン」と云うごりごりした紙へ描いてあって、その絵の為に『風見』はあけにくい位でしたが、私はそれを見た時、頭がカァーッとする程亢奮しました。何度その絵をと見こう見したか知れないし「伊藤さん」が或る日来た時には、どんなにその一寸猫背のような、カラを付けないで服の襟を外している、その風貌も何も彼も、尊敬したか知れません。兄キの室へ行ってはその『風見』を幾度も見たものです。例の来者不拒のかけじのある室へ。
と、矢張りその時分のこと、兄キが此度は何だか大きな紙へハムレット
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