しになつたことはあらうけれど。
 ○くるわの各門には外界に対して石だたみの小橋がある。しかし、この門は平常閉まつてゐたのである。
 ハネバシは一つの戸板だと思へばいゝと言ふことです。昔は廓外地域は現在よりもなほ一層低かつたので、この低きに高かつたところからハネバシを渡す便を計つて、向う岸の溝川のふちに、俎板の如き橋受けがあつたといふことです、これに対して、真向うの家なり路次なりからハネバシをわたしてくる、それには橋の先端にツナが付けてあつて、ハシを渡さんとする時これを持つて向う岸へ板をストンと渡す操作をする。
 この個所のトリツキは、古老も、さあ、と言つて首をかしげてゐたが、たゞ立てかけてあるのもあつたやうだ、と言つてゐました。恐らく適宜カンガイ止め等もありしことでせう。
 そして、用なき時にはツナにて引上げておく。だから廓外からは勝手に渡れぬわけです。されば少年時ぼくが見なれた△個所のハネバシは、両岸地形の差少なれば(それにドブも狭いから)手で持ち上げる式のフタに過ぎなかつたものでせう。
 ドブフタの上で見得を切る手もあるまい、しかし大兄、ハネバシの上でチヨンなんてのは、元々余りいゝ
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