土地に深い(おとり様の境内に父祖数代住んでゐる)谷古さんといふ人からいつぞやきいた処では、この溝川(即ちはねバシかゝる処)が昔は幅九尺もあつた、それで、廓内から一たん水中へさんばしやうのものを出しつゝその先へハネバシ(板)をかけて、向うへとゞかせたもので、岸はシガラミだつたとのこと。
 遠見はタンボ。却々風情のあつたものだといふことです。
 図のやうなものでせう。(第二図)
[#「第二図」のキャプション付きの図(fig47735_02.png)入る]
 ところが、星移り月変るうちにですな、廓が段々段々とこの溝川を侵蝕して膨脹し、流れを狭くしたといふのです。今日土地のとしよりに聞いたところでは、a―b―c約一間ぐらゐの流れだつたとのことです。
 この通りに小態な額縁屋があつたので、そこの老人に聞きました。六十以上と見える人。わざわざ額縁を一つ買つたから、モトデがかゝつてゐるわけ也。打見たる処この界隈の家々の背は、家と家のしや合ひの木戸から段々にて今でもまるで川へ下るが如き仕組にしてあるものもあれば、(恐らくこれは昔のまゝの仕組ならん)、勝手口とおぼしきガラス戸へ往来のコンクリートからハシ
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