吉原ハネ橋考
木村荘八
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)廓《くるわ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「┼」の上下左右に外向きに矢印の頭を付けた記号、144−16]
−−
山川秀峰 大兄
この便遅延失礼。矢来町より御指図につき早速ハネ橋について誌します。実はぼくの見おぼえだけでは昔のことでもあるし危険と考へ、今日実地見聞をなし、土地の人にも聞いて、大体自信がつきました。
さて、ハネ橋といつぱ――
[#ここから1字下げ]
垢ぬけのせし三十あまりの年増、小ざつぱりとせし唐棧ぞろひに紺足袋はきて、雪駄ちやらちやら忙しげに横抱きの小包は問はでもしるし、茶屋の棧橋とんと沙汰して、廻り遠やこゝからあげまする、誂へものの仕事やさんとこのあたりに言ふぞかし……
[#ここで字下げ終わり]
これは一葉のたけくらべの本文で、文中の「茶屋の棧橋とんと沙汰して」とあるのが問題のものです。御承知の(といつてはシツレイかどうか)大門を入つて左右の太い斜線が引手茶屋なれども、これへのハネバシは大門外の左右の太線(第一図)の位置からつくといふことになります。廓《くるわ》はそのぐるりを大溝《おほどぶ》で囲つてゐました。この溝にハネバシがあつたわけで、ぼくの今日の見聞はa―b―c―dと歩いたのです。dはおとりさまです。
[#「第一図」のキャプション付きの図(fig47735_01.png)入る]
昔いろはの第九支店(浅草区地方今戸町九十三番地)が×の位置にあつた。そのころ△位置あたりのチヤチなはねばしをぼくは知つてゐたのでしたが、それはほとんどドブのふたの如く、長さも短かくて面白くありません。思ふにハネバシとしては、これはすでに末期症状のものでしたらう。
はねバシらしいはねバシは、所詮一葉ゑがくところの、大音寺前寄りの方でせう、こゝは(b―c)今行つてもそゞろに地形でわかるが道路から家へと一たん土台が石垣積みになつてゐて、石垣の高さはぼくのせい位あります。といふのが廓の内外へかけてこゝに截然と段階があつたので、この下のさかひのところを、水が流れてゐたわけです。(今はコンクリートですつかり埋めてあつて、この上をわれわれが歩いてゐるのです)
此の
次へ
全4ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
木村 荘八 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング