造されるものやら、これに二系統あるやうで、一つは比較的古く、上質の唐紙へ粗く描き流した南画風のものが多く、きまつて二重丸の中へ岸田と刻した俗な印章が捺してある。(かういふ印章は故人は使つてゐない)
 それからもう一手は、これは近頃出来の――あるひは現に今も作られつゝあるだらうところの――悪質の偽作で、相当岸田ものを習つて作る仕事らしく、現に印章が二つ(写真に依つて?)偽造されてゐるから注意を要する。劉生之印とある稍大形の角印及び劉生とある小形の角印がいけない。双方ともほんものと比べて見ればわかることには、印の角々のきまりが堅い。劉生之印のほんものは角形の底の一線が心持半円に外へふくらみを持つてゐるのに、偽印はペタンとして薄情に一直線である。さういふペタンとした印を見たら眉唾と考へていゝ。
 殊にこれは丹念に劉生好みの陶器や果物など図した手頃の描ものや色紙が多いので、けんのんなことである。(用紙、墨、共に、これは真作よりも上質なのは、バカバカしい限りである。)
 岸田の作品は高値を呼んでゐるさうである。世の中のことはわからないもので、岸田を岸田銀行の頭取のせがれだなどといひ、先々金満紳士
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