花火の夢
木村荘八

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)外《そと》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)くにやり[#「くにやり」に傍点]
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 花火で忘られない記憶は、私の家の屋根へ風船の付いた旗の落ちたことだ。「落ちてゐた」といつた方がいゝかもしれない。旗はガンピの日章旗で、畳三畳敷位ゐの大きさであつたらう。これに相当大きな風船と、細長く紙を幾重にもたゝんで出来た旗竿が付いてゐた。旗竿の部分には鉛がところどころに綴込んであつた。――これが私の見てゐる前で、私の家の屋根瓦へすれすれについて、くにやり[#「くにやり」に傍点]と曲がつた時には、私はその一端をしつかとつかまへて、有頂天になつた。あれ程純粋に嬉しかつた「嬉しさ」は、ジンセイに余り類の無いものかもしれない。
 私は両国の花火は子供の頃ずつとそのすぐそばにゐたので、却つて船で見たことはない。よく「ズドン、バリバリ」といふことをいふが、すぐそばで揚がる花火はこの言葉の通りで、殊に、あとの「バリバリ」が爽快を極める。火薬の破裂音が空に反響して、これが上から手をひろげて掴むやうに
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