いのである。
 ぼくはぼくの家の「装飾」――それがそのころ市内の一種のメイブツだつたと云はれる――をそんな風に考へてゐる。

 いろはにはその屋内装飾――つまり客間用に――その壁面へ持つていつて数多くの大きな鏡をはめ込むと共に、柱々には、一々細長い、ゴツゴツ紫檀わくのついた、小形のいはゆる「姿見《すがたみ》」を懸け連ねてあつた。これは室内を賑々しく、明るくしたものである。そしてそのキラキラする室内の居なりへ、採光のガラス戸からはそれぞれ五色の色の反映しかゝる(従つて客はその五彩の中に坐る)「明治」の牛肉店の内部を想像されたい。これへ又相当ヤニつこく化粧した黒えりに日本髪(主として銀杏返し)、丸帯に前掛け姿、たすきがけの年ごろの女中達が配色される次第で、みいり[#「みいり」に傍点]もきりやう[#「きりやう」に傍点]も良い女中頭は別として、女中達の一般は、紺足袋だつた。白足袋では、アブラつぽくなるその日その日のつひえ[#「つひえ」に傍点]が負担に堪へないからである。
 女中達には座持ちの「サービス」つまり客笑談までのことはあつても、色めいたサービスは無い。若しあれば彼女は職場を退かなければ
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