#「しきり」に傍点]が出来てゐるのは、家を西洋館まがひに見すべく、木のくり[#「くり」に傍点]型とトタンでこの蛇腹やうのものを添へたわけで、このゑぐれたところに大字で右から「第八支店いろは牛鳥肉店」と横流しにペンキで書いてあつた。(図はこれの書き直しの時の有様でもあらうか、原図は明治四十年ごろの写真である。)「いろは」だけが赤がきだつたらう。
「いろは」或は「牛鳥」が赤字だつたこと、殊に「牛」の字と赤との関係は、これはいろは以前の牛肉店以来一つの慣習としてさう行はれたことで、今でも牛肉店に――引いては馬肉店にも――この仕来りは踏襲されてゐる。これは勿論それが目立つ意味と、獣肉は赤いから、そこに基づく由来があつただらう。いろはの営業種目の招牌には「牛羊豚肉営業」とあつて、事業上は牛鳥だけを扱つた。鳥は鶏肉、かしは[#「かしは」に傍点]と云つたものだ。
この家の三階はあとから取り附けのもので、いはゆる「おかぐら」普請の、これだけ八畳程の小間《こま》だつた。トタン屋根で屋上に「いろは」の赤ガラスに白字を抜いた標識が掲げられてゐる。(大屋根のいろはも赤塗りに白の漆上彫りである。)
三階の増
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