子 だつて、おかみさんが、あんなに言ふんだもの。
弟 彼奴は畜生だ、だに[#「だに」に傍点]だ。
沢子 そんな事、大きな声で言つてはいけないわ、恵ちやんだつて、まあ厄介になつてゐるんだから、もしも――。
弟 (泣く様に)さうだ、厄介になつてゐる。
沢子 ――それに、どうせ、私の身体は、いつまで休んでゐたつて、スツカリよくなる身体ぢや無いしね、私やつくづく――ほんとに――(声を立てないで泣く)
[#ここから2字下げ]
短い間
[#ここで字下げ終わり]
弟 沢ちやん、お前、泣いてゐるの?
沢子 いゝえ、――泣いちやゐないのよ。泣いちやゐないのよ。
弟 ――工場であんな事にならなきや、よかつたんだ。俺の眼がこんなにならなきやよかつたんだ。そしたら俺が。
沢子 ほんとにねえ。
弟 そしたら俺が、皆をどうにでもしてやつてたんだ。姉さんだつて、こんな――。
沢子 しかし、恵ちやんの眼が開いてるたつて、仕様が無かつたのよ。――つまりが金なんだから、金には勝てないもの。
弟 ――どうにも仕様がない? ――さうは思はないんだ。俺、さうは思はないんだ。――そりや金は無いけど、眼が見えてゐたら、俺、殺してや
前へ 次へ
全81ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング