いけねえ、此処へ置いとくぜ。
お秋 あら、あんた、二階へ上つて行くんぢや無かつたの。
客二 さうしちや居られないんだ。又今度だよ。どうも世間がかうザワザワしてゐたんぢや、これでユツクリ遊んでも居られないや。ぢや。(出て行く)
お秋 変だわねえ――。
阪井 今のは何と言ふ人だい?
お秋 さあ、二三度来たばかりの人で、名前は知らないわ。
阪井 さうか……。
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客の中の一人はテーブルに寄つたまゝ酔つて居ぎたなく眠つてゐる。その他の客は、以下劇の進行中に目立たない動作をして出て行く。
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お秋 阪井さん。
阪井 ――(顔を上げる)
お秋 あんた朝鮮へ行くんだつて。
阪井 ――あゝ。
お秋 (手に持つてゐた何かをガタンと床に取落す。それを拾ひ上げて)さう――。どうして朝鮮なぞへ行くの。
阪井 どうして?
お秋 朝鮮に知つた人でもあるの?
阪井 そんなもなあ居ない――。
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前に出た仲仕の中の一と二と三が急いでドヤドヤ入つて来る。
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仲仕一 あ、居た、居た、居た! おい阪井君大概いゝ加減にしてくれ。捜したつて無
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