山、どうしたのか、急にうなだれる。
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お秋 何でも出来るんだつて、何が出来るの? 何がお前さんに出来るの?
杉山 (虚勢で)おゝ、何でも出来らあな。
お秋 ぢや、初ちやんのお腹の子は俺のだと言つてごらん。言つてごらん。
杉山 べらぼうめ、(力無く)そんな、そんな、ペテンにかゝつてたまるか。笑はせやがらあ。
お秋 ぢや、お前さんには、初ちやんを追かけ廻したりする資格は無いのよ。――それから町田さんをゆすつたりする資格は無いのよ。――そして、杉山さん、お前町田さんをどうしたの?
杉山 どうもしやしねえよ。
お秋 ――(間)杉山さん、(非常に真率に)お前さん、こんな事をしてゐて、本当に、恥かしくはないの? 何でも出来ると言つてゐる口の下から、初ちやんなどを追廻してゐるのを恥かしいとは思はないの?
杉山 ――何を言つてやがるんだ。
お秋 さうぢや無いの? お前さんには、する仕事と言つてはそれだけしきや無いの? ――ねえ、私達はこんな女なのよ。人が嫌つて後指を差す様な女なのよ。誰もまともには相手にして呉れない女なのよ。
杉山 それがどうしたつて言ふんだよ。
お秋 どうもしないんだけど、話をしてゐるんだわ。――そんな女なのよ。私だつて初ちやんだつて沢ちやんだつて、――それから外にも、まだどれだけでも沢山ゐるわ。そしてね、杉山さん、それは、私達がこんな女であるのは、私達が好きこのんでなつたんだと、お前さん思つてゐるの?――私達はこんなにならないで、外のどんな立派な人間にだつてなれてゐたのを、たゞ、私達が、自分でなりたがつたから、こんなになつたのだと思つてゐるの?(間)お前さんが、自分のする事もロク/\しないで、追廻して、いぢめてゐるのは、そんな女なのよ。そんな女だわ。――見たかつたら見せてあげるわ。疵《きず》だらけで、みじめで、弱い、自分の命を少しづつ切りきざんで、やつとの事で生きてゐる女だわ。――世間では私共のことを何とでも言ふがいゝのよ。――私は世間から、いろ/\世話をやかれて助けて貰ひたいとは思つてゐないわ。そんなこと言つてゐるんぢや無いのよ。私達がゐなくなれば、誰かが又私達になるんだもの。――私達はたゞくじ[#「くじ」に傍点]を引いただけよ。そして仕方が無いと思つてゐるのよ。――しかし杉山さん。私達はお前さんの敵《かたき》なの? お前さんは私達の敵《てき》なの?
杉山 ――誰が敵だと言つたい?
お秋 ――初ちやんは、やつと、少しばかり、ほんの少しばかり、仕合せにならうと思つたのよ。――そして一生懸命になつてゐるのを、お前さんは、どんな目に合せたのよ? ――初ちやんは身を投げて死なうとまでしたんだわ。
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間。
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杉山 ――俺は初子が好きなんだ。
お秋 好きなら好きの様に、ぢや、どうしてしないの? 好きなくせに、どうして憎んでゐる様にやつて行くの? ――私にはわかるのよ。お前さんはやくざだよ。やくざは、どんな事にでも嘘を言ふんだわ。自分にだつて嘘を言ふんだわ。私は正直に言つてゐるのよ。――(間)
杉山 (力無く、しかし言葉だけは強く)へ、説教か。
お秋 私の言つてゐることが説教なの? 説教だと思ふの?――杉山さん、説教をして私達に聞かして呉れるのは、本当は、お前さんでなきやならぬ筈ぢやないの? (永い間)沢ちやん、あんたまだ寝てゐなきやいけないんぢやない?
沢子 えゝ。
お秋 また、そんな、駄目よ。
沢子 寝るわ。(立上つて去る)(間)
杉山 俺、もう、帰らあ。
お秋 え? それで、さ、どうするの?
杉山 どうするつて何だい?
お秋 初ちやんをどうするの?
杉山 (虚勢で)べ、べらぼうめ、そんな自分の子でも無えものをおつつけられてたまるか。
お秋 ぢや、初ちやんを追かけ廻したり、これからしないの?
杉山 そんな事、俺が知るもんか。――だけどもねえ、お秋さん、俺だつて男だぜ。どんな事だつて、する時になりやするぜ。――見てゐねえ。俺がどんな事をするか、永い眼で見てゐねえ。
お秋 見てゐるわ。――その時になつたら、その時になつたら――。
杉山 その時になつたら?
お秋 私達は、あんたの事を、やくざ[#「やくざ」に傍点]では無かつたと思ふわ。(短い間)
杉山 ぢや初子、さやうならだ。(去る。――足音。――階段の中途から階下へ転げ落ちる響)
お秋 (立つて奥の廊下に出て)どうしたの? どうしたの杉山さん? どこもけが[#「けが」に傍点]はしなかつたの? 大丈夫なの?(答無し)
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お秋室に戻る。間。
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お秋 初ちやん、もうこれでいゝのよ。
初子 だつて私、こはいわ。
お秋 何がさ!
初子 だつて、何をするか解らないと言つてゐたんぢや無
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