か、なあ。そこい行くと、おらちなんぞ、つまらねえ、大事な息子は、もうちゃんと墓の下だかんなあ。(涙声)化けてでも出て来うと思うのに、久作の阿呆が、からっきし、夢枕にも立ちやがらねえ。
農夫 久作の事は言うな。物は考えようだ。荒木じゃ米の供出では、鷲山で一、二の成績で、それもあの婆さまがしっかりしているからだつうが、そのしっかりもんがよ、毎月々々その日が来ると、ああして取っつかれたようになって通って行かあ。つらかんべえ。まだこっちは、ハッキリ諦らめが附くだけ、ましかもわかんねえ。
しげ お前は男親だから、そう言うだ。おらなんぞ、あの婆さまがうらやましくなる事があらあ。阿呆な、ホントに、ホントに阿呆な戦争やらかしたもんだなあ! 大事な息子戦死させて、そいで、その後のここらの暮しがちっとは良くでもなる事か、まるでアベコベもアベコベも、一升の米で地下足袋一足も買えねえなんて、おっそろしい世の中になっちまってよ。腹が煮えら。息子の死んだな無駄死にだもん、東京の大臣さんたちゃ、どうた量見か聞いて見てえよう、まったく。
農夫 ほえるな、バカ。早く苗取って来う。百姓はタンボだ、理屈こねている暇あ無え。
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