れで一俵二百円からすんだからな。こんなエンフレエじゃ、俺ちみてえな野かじなんざ、たまったもんじゃねえぞ。まったく!(火の中に鍬の穂をザっと突っこみ、あと勢いよくフイゴを押す。そのゴーゴーと云う音の中に、遠くから鈴の音が入って来る……)
さぶ あゝ、鷲山のキチゲ婆さんが来た。
かじや あゝん?
さぶ 源次郎さんとこのよ、ほら。(鈴の音が近づく)
かじや へえ、するつうと、今日は二十六日かよ? 俺あ二十五日だと思っていたが――(鈴の音近づく)そうか、そんじゃ、山田の馬力の輪は、今日中にやっとかにゃならんな。堆肥ば山へ運ばんならんのが、たしか二十六日とか云ってた。
さぶ んじゃ、輪をはずしとくかな。
かじや うむ、(表を通りかかる鈴の音に向って)おそめさん、早いねえ、おそめさんよ? よくまあ、なんだ、根気の良いこんだなし。
そめ あい。……(足はとめないで通り過ぎて行く)
さぶ (それを見送りながら)だども、いい加減にあきらめたら、どうずらなあ、あの婆さまも。
かじや そこが親つうもんだ、なえ! キチゲなどと云うと罰が当るぞ。俺なざ、毎月の今日、あの婆さまが通るたびに、おふくろに孝行する気に
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