つれえこんだなし。
旅の女 いいえ、つらい事は覚悟して来たんですから、なんでもないんですの。ただ、おなかが空いて歩いて行く力がなくなっちまって――
そめ うんそうだ[#「そうだ」は底本では「そうた」]、おらに握り飯があるよ。ホイホイ。(帯のうしろにむすび附けた包をほどきながら)これ食って行きなせ、あい。
旅の女 え? まあ!、これ、いいんですか?
そめ ええとも、ええとも。竹の皮ごと持って行きなんし。
旅の女 それは、どうも。ありがとうございます。助かりました。なんでしょうか。いかほど、お金さしあげたら?
そめ なに、ぜになど要らんよ。それは、おかつがこせえてくれたおらのベントウだ。
旅の女 じゃ、お婆さんがお困りでしょ?
そめ あにさ、俺あ、へえ、食わずにすましただから。遠慮せずと、お持ちなせ、さあさ。
旅の女 そうですか。そいじゃ、どうも――おかげで、助かります。こんな所で、どこの方か知りませんけど――(涙声)忘れません。……ありがとうござ……
そめ あい、あい。(少しテレるような調子。しばらく前から、彼女の調子に、夢から醒めた人のような所が出て来ている)そんじゃま、早く行きなせ、
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