……そうかえ、そうかえ、良いお子だ。いいから、婆はいいから、明日になったら、坊やがキャラメル買うて食べなんし。(歩き出している)
男の子 要らんつうたら!
そめ ……(遠ざかりつつ)いいから、よ!
男の子 やいやい、やいやい! 息子のホリョの奴ぁ、今に帰って、来るぞう!
そめ (うれしそうに)あい。
男の子 (遠くから)バカア! キチゲばばあ!
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コロコロと行く鈴の音。
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旅の女 あの、もしもし。……ちょっと伺いますけれど。……(おそめは立停って、薄闇をすかして見ている)この辺に、何か食べるものを売ってくれる内はないでしょうか?(返事なし)……なんでもいいんですけど?
そめ ……なんな、お前さま?
旅の女 いえ、東京を立つ時にもう少し何か用意して来ればよかったけど、……夕方までには――この前、戦争中来た時には、バスが白浜まで行っていたから、その気で、夕方までには着けると思っていたら、いつの間にか、バスがほかへ廻るようになっていて……おなかが空いて、あなた、もう歩けないんですの。……白浜まで、まだ、二三里有るんでしょ?
そめ 白浜かいな? 白
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