だな、こんだけ俺が頼んでも――
吏三 又カリンサンだあ!
助役 まあま、小父さ、そんな泣いたりせずともだな――わしら、あんた方村民のために良かれと思って、出来るだけの事はすっから――(おそめに)だから婆さま、今日はもうお帰り。な! そうやってお前が坐りこんでいると役場のじゃまになるし、第一、内でも心配してるずら。悪い事は言わねえから内へ帰って、落ちついて待っていなせえ。
そめ はい。でも、お願えでございますから、末吉の野郎、返して下されまし。お願えで。
助役 だからさ、又こちらでも此の上にも係り係りへ早く返してくれるように頼んだり、手配はチャンとしとくからね、今日はもうお帰り。
そめ そんな事おっしゃらねえで、どうぞ、へえ。待つぶんは、いくらでも待ちやす。末吉はわしが連れて戻りやすから。
助役 まるで、へえ、息子が此処に居るようだなあ。弱ったね、こりゃ。
吏三 でしょうが? 相手になっているときりが無えんですよ、いつも。又あ言い出し、又あ言い出しして、夕方までは、どうせ帰りはしねえですから。――(おそめに)婆さま、いいからね、そっちの隅の腰かけさ、かけていなさい。
そめ はい、ありがと
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