い方へ耳をすますようにしている桃子。ほとんど恍惚として我を忘れて須永を仰ぎ見ている柳子。――静かだ)
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13[#「13」は縦中横] 食堂
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(私が一人で立っている)
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私 ……待てよ。ぜんたい何が起きたのだ? 何が此処で起きたのだろう? 起きつつあるのだろう? 私たちの生活は、それほど愉快な明るいものではなかった。しかし、おだやかな、気持の良いものだった。そこへ須永がとびこんで来た。はじめ何がとび込んで来たのか、誰も気が附かなかった。そのうち、ヒョイと気が附いた。これは殺人者だ。そしてもう既に死んでいる人間だ。そいつが私たちの間をウロウロしはじめた。すると私たち全部の調子が不意に変になってしまった。死んだ人間が歩きまわっているのを見ているうちに、おれたちの一人一人が急に、自分が生きていることに気が附いたのか? ……いや、そうではない、須永は死んだのではない。須永だけが、おれたちの中で須永だけが今生きているのではないのか? 須永は、今こそホントに生きはじめたのではあるまいか? それを見ておれたちの一人々々
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