を口へ持って行き、吹く真似をする。しかし音は出ない)
須永 ええ。……
柳子 須永さん! (かすれた、押し殺した声で言い、いきなり、ふるえる片手で須永のひじを掴み)……逃げて下さい! 早く、どっか、早く逃げて下さい! 逃げて下さい、つかまる! 早く逃げないと!
須永 え? ……(びっくりして柳子を見る)
柳子 な、なんでもいいから、早く、あの、逃げて下さい!
須永 …………(困って、柳子の手をソッと振りほどいてとなりの若宮に眼を移す)
若宮 わあっ! (それまでもワナワナとふるえていたのが、須永からチラリと見られると、我慢できなくなり、叫び声をあげるや飛びあがって、いきなりガタガタと床板を踏み鳴らして駆けだし、板戸の間から今はまっ暗な私の室を通り抜け階段を駆けおりる音がドドドドと下に消える)
舟木 どうしたんだ?
省三 警察に電話でもするんじゃないか?
浮山 そりゃ、まずい。……(小走りに若宮の後を追って私の室の方へ消える)
須永 ……(その間に房代を見ている。と言うよりも、房代の方がルージュの濃い口を開け放って、顔色を蒼白にし、眼をすえた、ほとんど発狂せんばかりの恐怖の表情で、及び腰
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