そう言えば、三味線やんだから、柳子さん、塔の方へ迎えに行ってらっしゃるかも知れない。房代さんのお父さん、お帰りんなった?
房代 ええ。上で帳簿をしている。セロリ、もう少し切るかな?
織子 こいでたくさんじゃない? 食べるのは内の舟木と三階の先生だけなんだから。
房代 ……先生の所には、今日もお客さん見えたんですの?
織子 さあ、一人二人、声はしていたようだったわ。
房代 どうしてあんなに若いそれも女の人たちまでチョイチョイ来るんでしょ?
織子 いろんな事を聞きにくるんじゃないかしら。それとも、フフ、奥さん亡くなった後なんで、その後釜をねらって押しかけて来るのかな?
房代 あら、あんな人――あんな、怖いみたいな?
織子 怖いは、よかったわね。
房代 でもさ、あの方が、黙っている時の眼をヒョイと見て、この人すこし気が変じゃないかしらと思う事があるわ、私。
織子 そう言えばそうね。普通の人とは、どっかちがっている。……でも良い人よ。
房代 御飯よそっときましょうか?
織子 みなさんおいでんなってからの方がよくはない? ええと……これで、なにね、こうして仕度をしてしまって見渡して見ると、たっ
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