み合い、親しみ合いながら、お互いの中へ深くは踏み込んで行く人は無いので、平凡ながら、おだやか過ぎる程におだやかな暮しだ。ギラギラする幸福を持った人は一人も居ないが、落ちついた平和な空気がここには有る。今の世の中では幸福な人たちだと言えるかも知れない。そうだ、たしかに今となっては、これは幸福なのだ。毎日の夕食だけは、一階の食堂で、女の人たちの作ったものを、一同寄り集まって食べることになっている。今日も間も無く、それの知らせの鈴が鳴るだろう。
 すっかりもう暗くなってしまった。窓の向うの空だけが明るい。三味線の音も、やんだ。

     2 食堂

房代 さあ出来た。
織子 ひい、ふ、み、よ、いつ、む、なな、や、ここのつ。
房代 みんな居るかな?
織子 内の省三がまだだけど、間もなく帰って来ます。
房代 アルバイト?
織子 そう。大学生があなた、講義に出るのが一週二日で、あと四日はアルバイトで稼いでんだから、変なもんね。はい、お箸。
房代 モモちゃん、どこかしら? また塔に登ってるかな。
織子 連れに行って来ましょうか?
房代 でも、下手にあの子の世話を焼くと柳子さんに睨まれちゃう。
織子
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