の二人暮しだ。もと絵を描いていたが、いつ頃からかそれをフッツリとやめてしまった。今はオモトやランの栽培にこっている。近頃では地下室でマッシュルームの養殖もしている。若い時はさんざん道楽をしたと言うが、今はもう枯れ切ったと言うか、物わかりの良い、ひょうひょうとした人だ。広島で寝ている未亡人の、またいとこに当る縁のため、早くから此処に住んで管理人になっているが、この家屋敷は何か複雑な関係で二重の抵当に入っていて、どこをどうにも動かせないため、仕事と言ってはほとんど無いらしい。モモちゃんと言うのは広島で原爆を受け、親兄弟全部を取られ、自分だけは助かったが、眼が見えなくなった。十六か七になったろうが、原子病の跡が残っているためか、まだ実が入らない花のクキのように見える。いつもニコニコと快活な子だ。四階の塔に登るのが好きで、そこで笛を吹く。もと浮山さんが吹いたと言う、銀製の横笛で、昔たしかミン笛とか言った奴をもう少し複雑にしたもので、あれでやっぱりフルートか。
 以上八人、私をこめて九人の人間が、この家に暮している。みんな良い人たちで、お互いの間にゴタゴタや不愉快なことは起きない。一同互いにむつ
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