た二品か三品の御馳走だけど、戦争の直ぐあとは勿論だけど、これで去年あたりと較べても、まるで夢のようね。
房代 それはそうですわね。材料だけから言っても、三四年前には手も出なかった物ばかり。
織子 それを思うと、あたしなぞいろんな事思い出して泣きたくなる。なんだかだと言っていても、すべてが良くなって来ているのねえ。
浮山 (シャツ姿で入って来る。手に三四枚の夕刊新聞)良くなって来た? なにがです? ……や、こりゃ御馳走が出来たな。
織子 いえ、その御馳走がですの。たかが手作りの惣菜料理なんですけどさ、二三年前の思いで見ると、まるで豪華と言ってよいか。
浮山 そら、そうだ。戦争中から終戦直後など、大豆しか無かったんだから。金も無いにゃ無かったが、たとえ有っても肉も魚も手には入らなかったんですからね。思い出すとゾッとする。
織子 うなされていたような気がしますわね、あの時分のこと考えると。それがしかし、又ぞろ再軍備だとか徴兵だとか、あっちでもこっちでも又々おかしな調子になって来てるんですからね、人間なんてホントにまあ……。
浮山 死んで亡びるまで、又しても又しても、うなされるのが人間かも知れ
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