ませんね。仕方が無い。
織子 仕方が無いで諦めていられれば、なんですけどさ――
房代 鈴を鳴らすわよ。せっかくの御馳走が冷めちまう。
浮山 よしよし私が――(棚の上の大きい鈴を取って振り鳴らす。古雅な音が家中に反響して、遠くへ消える。……その反響の先きから笛の音が起きる。笛は単調な二節ほどを長く引いて近づく)
房代 ああ、モモちゃん、来た。(その方角に附いているドアを開けてやる)
織子 さあてと。(電燈のスイッチを入れる。そこらが目がさめたように明るくなり、大テーブルにすっかりととのえられて並べられた食物や食器が華やいで光る)今ごろになると、もうスッカリ暗くなる。外はあんなに明るいのに。
浮山 いや、外も、もう明るいのは空だけだ。
若宮 よう。……(言いながら、房代の開けたドアからセカセカと入って来る。手に小さいソロバンと手帳)いつもより遅いなあ今夜は。(言いながら正面の一番良い席の椅子にかける。浮山は夕刊を開く)
房代 お父さん、自分がいつもより早く帰って来たもんだから、あんなこと言って。
若宮 そうかな。……(卓上をジロジロ見まわして)よう、フライか。一杯いかざるを得ずと言うとこだ
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