人を殺すのは、いけない事じゃないかね?
須永 それは知っています。……でも、しかたがなかったんです。
私 しかたが無い? そう、しかたがないと言えば、なかったかもしれん。でも、悪いことは、やっぱり悪い。
須永 ええ、悪いです。……でも、善いことと言うのは、なんですか?
私 そりゃ君……(言葉につまる)
須永 戦争の時は、敵を殺すのは善い事なんでしょう?
私 …………(答え得ない)
須永 いえ、僕は自分のした事が善い事だなんて言う気はまるでありませんから、屁理屈を言おうとしてるんじゃありません。いけないのは僕です。でもホント言うと、何が善くて何が悪いか、僕にはまるっきり、わからないもんですから。――
私 ……(額に油汗が光っている)しかし、しかしだね……(あえぐ)その、逆にだな、君が人から、いきなり殺されたら、君、イヤだろう?
須永 そんな事はありません。いつ殺されてもいいです。……僕はもう、とうに死んでいるかも知れないんですから。
私 (歯をガリガリと鳴らして)僕は冗談を言ってるんじゃない。
須永 僕も冗談言ってるんじゃありません。弱ったなあ。(私が怒っているらしいのに、ホントに弱って
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