した。お父さんのピストルを――そんとき僕をおどかしたそのピストルを僕は掴んじゃっていたんです。自分で気が附かないでいました。バンと鳴って、お母さんが何か言って倒れたので、これはいかんと思って、あわを喰って、台所の方から出ようとすると、そこに兵隊が立って僕を睨んでいるんで、カッとなって、撃ちました。……ありゃ米屋なんですか?
私 ……(うなずいて)……スッカリ復員の時の兵隊服着てたって書いてある。
須永 そうですか。……
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(間……)
[#ここで字下げ終わり]
私 そいで、君はどうするの?
須永 どうすると言いますと?
私 その――これからさ?
須永 これからと言いますと? 別に僕あ――(虚脱したように弱々しい眼で、その辺を見まわす)
私 そいで、その、あい子さんの家を出てから、此処に来るまでどこに行ってた?
須永 あちこち、別にどこと言って……そうです、上野の美術館に寄りました。興福寺の阿修羅が出ています――あなたがいつかいっていられた――あれを見たり。
私 ……警察に行くことは考えなかったかね?
須永 考えないわけではありませんけど――
私 君は人を殺した。……
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