が辛いんです僕には。辛いんですけど、その辛いのが、何か良い気持なんです。そいで毎日、社の帰りに寄って、あい子の仏前にボンヤリ坐っていました。……今日は社が公休なんで朝行く気になって行きますと、あい子のお父さんが内に居て、応接室に通されました。実はあい子の実の父ではなくて、あい子が七つの時にお母さんの連れ子でかたづいて来たそうです。あい子のお父さんは以前、参謀本部詰めで、特務機関の関係で上海などによく出かけていた中佐です。終戦後、陸軍の用地だった方々の土地の払い下げ問題の世話焼きと言うか、そう言う事の委員やなんかやって、相当金ももうかるようで、その金を土台にして、もとの軍人などを集めて一種の国民運動組織のようなものを拵えているようでした。……その時も、そんなような客が二人ばかり来て、十個師団ぐらいではどうしようも無いとか、飛行機はどうするんだとか、再軍備の話をしてました。僕は黙って聞いていたんですが、話の内容はよくわからないし、興味もありませんでした。……そのうち、その客が帰って僕と二人っきりになると、お父さんがいきなり、どう言う量見で君はいつまでも此の家に来るのかと言うんです。僕、答え
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