微笑する)
柳子 そいつは、そちらさまの御自由ですよ。じゃ、いいわね? 行きますよ。(壺をカラカラと振って、パッと伏せる)……さ!
須永 どうも、しかし僕あ――
柳子 ……どうだ?
須永 どっちでもいいんですけど――
柳子 ……ば、馬鹿にするの、あんた?
須永 ……そいじゃ、丁です。
柳子 丁! ……(壺にかけた右手がブルブルふるえている。それをグッと睨んでいてから)……はい、勝負! ……(ソッと言ってから、スッと壺をあげる。チラッとサイコロを見るや、ガクンと提灯がしぼむように後ろに坐りこんでしまう)
房代 あーあ!
須永 どうも……すみません。
舟木 ふん。さ、部屋へ行こう。
織子 いえ、あの――
若宮 あのう……(先程この室に入ってきてから、この男にしては例の無い一言も口をきかないで須永の顔ばかり穴のあくように見ていたのが、この時はじめて、それもこの男には珍しい意味の無い言葉を吐く)
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(室内は水を打ったように静かになってしまう。柳子は虚脱して、須永の方をボンヤリ見ている。間。……ゆるやかな笛の音がはじまる。桃子が吹いているのである……)
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