)須永君。
須永 え? ……(私が顔を見ているだけで何も言わないので、柳子の指輪を拾って返す)いいんですよ、これ。
柳子 なに?
須永 いいんです、もらわなくても。
柳子 あんた、私を軽蔑するの? 賭けの勝負は親子の間だって待ったなしだわよ。ヘ! ……(血走った眼で、その辺を見まわしている)
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(そこへ、別の入口から、散歩から帰って来た舟木が、ステッキをさげ、外の廊下を自室の方へ通りかかったのが、この室の気配に気が附いて、のぞいて見たと言う様子で半身を見せる)
[#ここで字下げ終わり]
織子 (それを認めて寄って行く)あなた!
舟木 ああ。どうしたの? (室内の一同を見まわし、それから妻に眼を返す)……どうしたんだよ、顔色が悪いなあ?
柳子 ……ええい、ちきしょ! こんだ、じゃ、あたし全部を賭ける! さ!
房代 柳子さん、もうよして! お願いですから!
浮山 ホントだ。よした方がいい。全部を賭けると言ったって、まさか取って喰われるわけじゃない。
柳子 ですから、勝ったら、取って喰おうと、煮て喰おうと、叩き売ろうと――
舟木 なんだ……(またかと言った調子で室の中に
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